政治社会のスナップショット 2 (2017年)
 総選挙
                    【ブログ掲載:2017年10月20日】


▼まだ結果は出ていない。

投票も開票もしていないのだから、それも当然だが、今回の衆院議員選挙ほど選択肢のない、イヤな感じの選挙はなかったように思う。
 安倍内閣への不支持率は過半数を超えているが、支持率を大幅に上回っているというほどでもない、らしい。モリ・カケ問題で露呈した安倍政権の体質や政治姿勢に国民はうんざりし、安倍首相の薄っぺらな言葉にも飽き飽きしているのだが、自民党政権をどうしても変えなければならない、と考えているわけでもないのだろう。
 
まず現在の経済状況だが、国民の「実感」はともかく、近年になく良好だと言えよう。有効求人倍率はすべての都道府県で1倍を超え、人手不足は深刻だと伝えられているし、株価は21年ぶりの高水準を謳歌している。
 日本をとりまく外交・安全保障の面では、北朝鮮が核兵器とミサイルの開発を着々と進めているのに対し、国際社会はそれを非難しつつ、有効な抑制手段を見出せないでいる。そこで国際社会は北朝鮮を対話の場に引き出すために、経済的圧力を強めているのだが、日本もその対立の構図からはずれるような選択肢を持つわけではない。
 要するに、国民の判断を問わねばならないような、緊急の政治的テーマがあるわけではないのである。にもかかわらず安倍首相は、国会解散に踏み切った。

そこには巷間言われるように、モリ・カケ問題での追及を逃れる思惑もあったであろう。だがそれ以上に、民進党内の混乱を見て、今ならもっとも有利に選挙を戦えるし、憲法改正問題を公約に掲げることで、党内と国会での憲法改正論議の主導権を再び握り、悲願の実現を図りたいという政治家としての計算と賭けがあったはずである。

 

▼安倍首相の臨時国会冒頭での解散方針がメディアを通じて流れると、政界は浮足立った。
 小池百合子は新党「希望の党」を立ち上げて代表に就き、9月27日に結党の記者会見を行った。小池の側近の若狭勝のほかに、民進党を離党した細野豪志、「日本のこころ」の代表を務めていた中山恭子など、14人の国会議員が顔を並べた。
 民進党代表の前原誠司はその前後に小池と協議し、9月28日の民進党両院議員総会で、「希望の党」に「合流」する方針を提案した。「どんな手段を使っても安倍政権を止めなければならない。提案は単なる『合流』ではなく、名を捨てて実を取る、政権交代の大きなプラットホームをわれわれ自身がつくるということだ」と説明し、意義を強調した。

 具体的には、民進党は総選挙に公認候補を立てず、立候補予定者は「希望の党」に公認申請をすること、民進党は「希望の党」を全力で応援すること、「希望の党」との交渉は前原に一任すること、だった。それは民進党から離党する議員が続出するという状況の中で、前原が選んだ「一発逆転」の奇手だったが、野党第1党が事実上解党し、生まれたばかりの政党に呑み込まれることの影響力を、隅々まで計測した判断だったかどうか、疑問は残る。
 前原の提案は了承され、新聞にさっそく秀逸な川柳が載った。

 病葉(わくらば)も枯葉も浮かぶ小池かな 

 9月28日午後、衆議院は解散され、事実上の選挙戦が始まった。

 

▼小池百合子は「希望の党」の結党記者会見で、「日本にはありとあらゆるものがあるが、希望が足りない。国民に希望を届けたい。日本をリセットするために『希望の党』を立ち上げた」と述べた。「しがらみのない政治、しがらみのない改革」、「寛容な、改革の精神に燃えた保守」、「日本の心を守る保守」と、「改革」と「保守」という言葉を繰り返した。しかし具体的な政策は説明されず、事前に配られるはずだった党綱領も配布されなかった。
 また小池は29日朝、前原と会談をした後、「民進党の立候補予定者全員を受け入れることは、さらさらない」とメディアに語り、「安全保障、憲法観での一致が必要」と断言した。「安全保障、憲法観」で一致しない限り「排除する」という小池の言葉は、民進党内に不満と動揺を広げた。
 10月2日、枝野幸男・民進党代表代行は、「立憲民主党」を結成して代表に就くと表明した。結局民進党の議員は、「希望の党」から立候補する者、「立憲民主党」から立つ者、無所属で立つ者に三分された。 

 政局に今でも関心があるらしい細川護熙元首相は、「(安倍政権を倒す)倒幕が始まるかと思っていたら、応仁の乱みたいにごちゃごちゃになってきた」と評した。そして「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方で、『寛容な保守』の看板が泣く」と、強く批判した。
 また前川・民進党代表については、「名を捨て実を取ると言ったが、状況を見ていると、名も実も魂も取られてしまうのではないかと心配になる」と述べたという。(「毎日新聞」10/3)。小池百合子も前川誠司も、細川護熙が「日本新党」を立ち上げた時にその下に集まり、議員活動を始めた若者たちだったから、細川としても気になるのだろう。
 10月5日売り出しの週刊誌には、「自民74減 希望101」という「全選挙区完全予測」が載った(「週刊文春」)が、その後「希望の党」への期待の風は急速にしぼんだようである。

 

▼筆者は以前このブログに、小池百合子を念頭に、「一般視聴者の『甘さ』につけ込み、甘い言葉をかけてくる扇動家」には気を付けなければならない、と書いた。(「ひとはいかにして誤った考えを持つに至るか―――豊洲市場問題を例に」20173/173/31
 その後行われた都議選で、「都民ファーストの会」が圧勝し、自民党が惨敗したことにふれながら、自民党に替わる「受け皿」の問題について、次のように書いた。(「時事問題二題」20177/28

《安倍政権は多くの国民から飽きられつつあり、国民の一部からは強い反感を持たれているようだが、その政策の骨格はわりあいしっかりしているように見える。経済政策では「アベノミクス」の神通力は失われたものの、雇用統計はバブル期以上のパフォーマンスを示しているし、外交・安全保障の面でも手堅く実績を重ねている。
 だから自民党に替わる受け皿を目指すなら、経済・財政政策と外交・安全保障政策の面で、信頼される政策を持ち、国民に訴え、賛同を得なければならない。
  次の選挙のために、民進、共産、自由、社民の選挙協力を進めるという考え方が、一方にある。しかし国民は、信頼できる経済・財政政策と外交・安全保障政策を持たない政党を、本音のところで信用しないだろう。安倍首相の政治姿勢やスキャンダルに反応して批判票を投じる国民も、国際情勢が緊迫したときにはためらわず、より信頼できる外交・安全保障の政党に投票することだろう。》 

小池百合子は、「しがらみのない政治」とか「しがらみのない改革」といった、空疎な言葉をもてあそぶことはできても、議論を重んじ、議論を積み重ねて近代的な組織を動かしていくことができない。小池の一見華やかに見える人気にあやかろうとした前川の試みは、見事に失敗するだろう。自民党政権の受け皿となる勢力をつぶした前川の罪は、まちがいなく大きい。
 だがその背景には、民進党の議員が次々と離党しなければならない現実、民進党の足元が崩れていく現実があったことを、見逃してはならないだろう。それが何を意味するのかを考えることは、日本の「現在」そして「これから」を考える有効な視点であるはずだ。

 

(終わり)

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