5.カッパドキア

4月26日(木)

  晴。朝食をコーヒーと甘いパンだけで済ませ、7時15分にホテルに迎えに来たシャトルバスに乗り込む。シャトルバスとは、ホテルから事前の連絡を受け、ホテルを回って客を乗せ、空港に運ぶマイクロバスである。われわれを入れて7人を乗せたバスは、朝の町を猛烈なスピードで走り、30分で空港に着いた。

 9時45分発のカイセリ行きジェット機に乗る。満席だった。

眼下になだらかな大地が続いていた。区画され農地とされた場所もあれば、荒れ地のままの場所もある。しかしギリシャのように白い岩肌がむき出しになっているところはない。

村落がところどころに見える。遠くの山に残雪が消え残っている。雲はあるが、いちおう晴れている。

11時過ぎにカイセリ空港に到着。空港からカッパドキアまで1時間の移動は、現地の旅行社に依頼してある。旅行の出発前に、アルゲウスArgeusという旅行社のサイトを見つけ、送迎車を予約したのである。

到着ロビーの出口付近は、知り合いを待つ人や客を待つ観光業者で混雑していた。私の名を書いたボードをすばやく見つけ、掲げている男に声をかけた。荷物を飛行機に預けた客が出てくるのをしばらく待ち、マイクロバスは出発した。乗客は8人。


空港のわりあい近いところに、雪をかぶった険しげな山が見えた。車は草木の無いベージュ色の大地のあいだを進む。緩やかな丘がときどき現れるが、火山灰地のせいか畑の作物はひどく貧しいようだ。

カッパドキアとは地域一帯を指す名称であり、観光の足場となるのはユルギュップ、ネヴシェヒル、ギョレメといった名前の町である。約1時間でギョレメの町に到着。送迎車はホテルを回って客を1人ずつ降ろしていった。

われわれが予約したトラベラーズ・ケイブ・ホテルTraveller’s Cave Hotelは、高台の崖に掘られた洞窟ホテルだった。ひと部屋ひと部屋が独立した洞窟であり、部屋を背にしてドアの前に立つと、あたりの広い景色が見渡せる。

部屋の中はベッドのほかに暖炉があり、浴室があり、ソファーが二つと小テーブルがあり、なかなか広い。壁は白く漆喰で塗り固められている。若い主人から説明を聞き、翌日の一日ツアー参加を申し込んだ。

ホテルを出、ぶらぶら坂道を下り、バスターミナルの方へ歩いた。旅行代理店を見つけて、今日これからの半日ツアーはあるかと聞くと、あると言う。出されたチャイを呑みながら、社長らしき男からルートの説明を聞き、価格交渉。一人40ユーロで14時出発、17時にホテルまで送る条件で合意。

 

カッパドキアは火山灰が積もってできた柔らかな凝灰岩層が、長い間の風雨により浸食され、他の惑星に来たかのような不思議な景色がそこかしこに見られる地域である。

地層の柔らかな部分は削られ、硬い部分は残り、キノコのような岩やラクダに似た岩が造られ、笠を頭にのせた煙突が林立するような光景も生まれる。高台に上れば、雄大な光景を一望のもとに眺めることができる。

7世紀にキリスト教徒が、イスラムの支配を逃れて造った地下都市や岩窟教会もある。

おもな見どころだけでも東西20q・南北40qの広い範囲に点在するというから、誰かに車で案内してもらうか、団体ツアーを利用するのが利口だろう。

 

社長らしき男の運転するセダンに乗り、地域の雄大なパノラマを見られる高台に行く。





その後、アヴァノスへ行き、陶器工房に寄る。ヒッタイト文字をデザイン化したというグレーの器を買う。

途中、羊飼いが羊の群れを連れている光景に出合い、車を止めさせて写真に収める。




 夕食はギョレメの町のレストランで、肉の煮込みの壺焼きを食べる。


 

4月27日(金)

 

 朝、ホテルまでツアーの迎えの車が来る。車は予約客のあるホテルを回り、バスターミナルへ行く。ここで小型バスに乗り換え、15人ほどの参加者がそろったところでツアーは出発。ガイド役は30歳ぐらいの男でメフメットと名のった。流暢な英語でカッパドキアの歴史を語った。

ウフララ渓谷に到着。百メートル近く垂直に切り立った崖の上は平たい大地であり、崖下の渓谷を川が流れている。川沿いにトレッキング。


   


渓谷の終わり近くにある食堂で昼食。

午後、ツアーの一行はデリンクユの地下都市に行った。地中にアリの巣のように縦横に坑道を掘り、一時期は数千人が暮らしたことがあるという地下の「都市」である。

   

 立って歩ける高さの坑道もあれば、身をかがめなければ歩けないところもあり、人一人すれ違う幅のない細道もある。外敵の襲来に備えた仕掛けもある。換気や食糧、飲料水や排泄のことなど考えれば、数十人が暮らすのも難しいと思われるのだが。




 ツアーは奇岩地帯を回り、土産物店を回って、4時に終了した。

夜、バスターミナル近くのレストランで夕食。ホテルへの帰り道、雨が降り出した。部屋の暖房を強める必要があるほど、寒かった。

 

4月28日(土)

 

 朝、「見て!見て!」と、妻の呼ぶ声で目が覚めた。開け放したドアの向こうの外を見ると、目の前の空に熱気球が上がっていた。その数、およそ20個。どれも色鮮やかで、雲ひとつない快晴の空によく映える。

 スズメの声とニワトリの鳴き声があちこちから聞こえる。ツバメが何羽も飛びまわっている。

 熱気球は移動の手段を持つのだろうが、じっと一か所にとどまっている。降りていく気球もあれば、新たに昇っていく気球もある。

 

 朝食後、近くの「ギョレメ野外博物館」まで歩く。岩窟協会がいくつもあり、そのフレスコ画を見に訪れる観光客が、大勢列をつくっていた。いくつか覗いてみるが、保存状態はあまり良くない。

 奥の方に追加料金を取る教会があり、観光客の列もなかったので入る。暗闇の教会(カランルク・キリセ)という名の教会だそうだが、さすがにここのフレスコ画の保存状態は素晴らしかった。他に客もおらず、管理人の男がジェスチャーで、フレスコ画を撮ってもいいという素振りをし、ウインクした。好意に甘える。

 

 12時少し前にアルゲウスの送迎車がホテルに来、それに乗ってカイセリ空港へ。

 14時30分のトルコ航空でイスタンブルに16時に到着。地下鉄と路面電車トラムバイを乗り継いで、ベルジェ・ホテルへ戻る。

 

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